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在来植物の多様性がカギになる-日本らしい自然を守りたい

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在来植物の多様性がカギになる-日本らしい自然を守りたい

著者:根本正之
出版:岩波ジュニア文庫
価格:968円

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在来植物の多様性がカギになる-日本らしい自然を守りたい
 

地域の自然とコミュニティ、その両方の再生へと導くガイド

「はじめに」でまず驚いたのは、次の一文。
“日本人なら秋の七草として馴れ親しんできたカワラナデシコやキキョウ、フジバカマ、オミナエシそのどれもが都内では絶滅危惧種なのです。

”えっ、そうなの? 春の七草も秋の七草もどこにでもある植物だったんじゃないの? と読み進めると、続いてこう書いてあります。

“その一方で秋の七草でもクズやススキは鉄道線路沿いや高速道路の法面(のりめん)で強害野草になっているのです。

”これまたショックな言葉が出てきました。おなじみの植物、クズやススキは「強害野草」なんて呼ばれているとは! どうやら「昔ながらの日本らしい自然が絶滅の危機に瀕して大変」というような単純な話ではなさそうです。

著者略歴によると、根本正之さんは世界各地の土地荒廃メカニズムについて研究してきた経歴を持ち、東京農大に移籍して以降、国内に目を転じ日本らしい自然を代表する谷津田、河川堤防、ススキ草地の植物社会のしくみを解明し、その多様性保全や復元に取り組んできた方とのこと。

各地の多様性保全等のプロジェクトに指導役としてかかわっており、本書は第1章で、まさしくその具体的な取り組みの紹介から始まっています。荒川区汐入小学校の5年生と一緒に、隅田川スーパー堤防の斜面の芝生地に在来植物の多様性に富んだエリアをつくるプロジェクトを構想し、オブザーバーとして関わった経験が詳細に記されています。

第1章の後半は植物社会をまるごと観察する方法について、やや専門的な話が展開します。むずかしいと感じたら次の章に進んでください。第2章では「外来植物が増えていくメカニズム」をテーマに、そもそも在来植物とはなんなのか、絶滅の実態や外来植物とはどんなものでいつ持ち込まれ、どのように増えているのかを解説します。

一般に外来植物といえば生態系を乱す悪玉のイメージがありますが、すべての外来生物が環境に大きな影響を与えるわけではないことを次のように解説しています。

“人の持ち込んだ外来種(外来生物とほぼ同意語です)のうち10%が人の管理の外に出てしまい、そのうち10%が野外で繁殖し存続し続けることができ、さらにそのうち10%がなんらかの生態系・経済に影響をもたらす外来種になると言います。”

かなり大雑把ではあるものの、10%則と言われているそうで持ち込んだもののうち1/1000程度というのが意外でした。もっともその1/1000が大繁殖して影響を与えてしまったら問題であることに変わりはありません。

著者は第3章「在来植物を守るわけ」で、自身が提唱する「日本らしい自然」の姿と守るべき理由を明らかにし、第4章「絶滅の危機にある在来植物を取り戻すために」でその方針や各地での実践の具体例を示します。

本書は読んだことをきっかけに実際に緑の復元に取り組む人が生まれることを願って書かれた本です。大きな工事や再開発で失われてしまった地元の自然を取り戻したいという人に強くお勧めします。また、第1章の小学生たちのように、次の世代の子どもたちと一緒に生物多様性を取り戻すことをつうじて、大人も子どもも地域の自然やその魅力を再発見することにもつながるのではと感じました。地域の自然だけでなくコミュニティの再生にも役立つことを期待します。

(編集部:たかしな)

<目次>
 はじめに

1 土手に秋の七草を咲かせたい
 荒川区立汐入小学校五年生児童の挑戦
 隅田川スーパー堤防での試み
 土手の植物社会を観察する
 汐入方式のすすめ
 植物社会をまるごと観察する
 地下茎(根茎)や根の広がりを類型化する
 超多様性シバ地の植物社会
 チガヤ草地の特徴
 ススキのサイズは土壌条件で大きく変化する
 半自然て何だろう
 刈り取り、放牧、火入れが半自然草地をつくる
 半自然草地の植物社会
 光を求めて空間を棲み分ける

  コラム 生産構造図づくりにチャレンジ!

2 外来植物が増えていくメカニズム
 在来植物ってどんな草?
 絶滅の危機にある在来植物
 身近な野草が絶滅している
 在来植物が絶滅するとどうなるか
 攪乱のしすぎは在来植物の生育地を狭める
 在来と外来タンポポの違いを見分けるために
 外来生物は聞いたことがあるけれど
 理解しにくいのは用語濫立のせい?
 外来植物ってどんな草?
 どんな外来(帰化)植物が、いつ持ち込まれたのだろう
 なぜ外来植物は増えているのだろう
 変化する堤防法面の植物社会
 侵略的植物なら問題である

3 在来植物を守るわけ
 「日本の自然」と「日本らしい自然」の違い
 日本列島を覆うモンスーン気候と複雑な地形
 地形や気候の特性はどんな気質の日本人を育てたのだろう
 日本人のきめ細かさが生んだ景観
 草本植物のかたち
 半自然草地群落のかたち
 優占種の役割
 従属種と一時滞在種の特性

4 絶滅の危機にある在来植物を取り戻すために
 なぜ絶滅の危機にあるのだろう
 絶滅の危機から救い出す
 在来野草のタネ播きから苗づくりまで
 多様性のある群落づくり
 各地で試みる「日本らしい自然の復元」
 在来野草の花咲く土手に囲まれた田圃づくり
 浅草七福神・石浜神社は在来野草の花盛り
 在来野草を昔の棲みかに戻したい――日本らしい自然を豊かにするために
 野焼きと草刈りで伊豆・大室山の植物多様性を高める
 キキョウの咲くススキ群落の復元
 大室山の持続可能な開発目標(SDGs)を考える

 参考文献
 おわりに

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