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森学ベーシック:3.森と生物多様性:森の生態系サービス

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森学ベーシック:3 森と生物多様性:森の生態系サービス

<空>生物多様性が人類に提供する「サービス」

生物多様性が私たち人間に提供してくれる自然の恵みのことを生態系サービスと呼びます。聞き慣れない言葉でイメージがわきにくい人は、里山の暮らしを想像してみてください。山から伐りだした木材で家を建て、燃料にする薪、山菜や木の実、衣類に使う繊維や染料まで、森からいただくことができた暮らしです。加えて、わき水やきれいな空気、そして地滑りや鉄砲水をおさえてくれる森林など、少し以前の生活で、当たり前のように身近に感じられた自然の恵み、それらすべてが生態系サービスです。

今も残る里山の風景。山と雑木林と民家と畑がある。

近年、各国が生物多様性の保全に取り組むようになったのは、生物多様性が失われると、こうした生態系サービスも低下してしまう、ということがわかってきたためです。 かつて自然の恵み(=生態系サービス)は、私たちが利用する量よりも、生態系が再生産する量の方が多かったので、いくらでもタダで手に入るように見えました。ところが現在では、人口が増え、人類の活動があまりにも大きくなったため、生態系が再生産する力で、その必要量や機能を賄うことができなくなってきました。

「私たちが頼りにしてきた生態系サービスは、無限でもなければ、無料でもない」ということに、人類はようやく気づいたのです。

生態系サービスの価値は簡単にお金に換算することはできませんが、ひとつの目安として、「その生態系サービスが失われた時に、同じサービスを人間が代わりに技術的に提供するのにいくらかかるか」で考える方法があります。例えば、日本学術会議による試算では、森林の持つ様々な機能の合計を年間約70兆円になると評価しています。しかし、生物多様性保全機能などはここに含まれておらず、また貨幣価値に換算することが困難であるので,実際の環境価値は試算額を上回る巨大なものといえます。

森林の持つ機能と評価額
農林水産省「地球環境・人間生活にかかわる農業および森林の多面的機能の評価について(答申)

1998年の中国の長江(揚子江)の洪水もよく知られた1つの事例です。被害者2億人以上、被害総額約3兆円という大災害でしたが、上流の森林の大規模な伐採がなければこれほどの災害にならなかったと考えられています。森の保水力、洪水を防ぐ機能に限っても、その森林には被害額に相当する価値があったことになります。中国では、その後、この大災害を教訓として大規模な植林事業が展開されました。

国連が分類する4つの生態系サービス

生態系サービスとは、具体的にはどういうものをさすのでしょうか? 多様な生態系のサービスなので、大変複雑なのですが、国連は「ミレニアム生態系評価」の中で、「供給」「調整」「文化」「基盤」の4種類に分類しています。

供給サービス、調整サービス、文化的サービス、基盤サービス

1.供給サービス

人間の生活に重要な資源を供給するサービスをさします。森が提供してくれるものとして浮かぶのは、木材や紙の原料はもちろんのこと、衣類やロープに使う繊維、果物や木の実や、山菜・キノコなどの食料、水などがあります。森はまた、医薬品の原料を供給してくれます。例えば、アスピリンとして知られるアセチルサリチル酸は、ヤナギの樹皮のエキスに含まれるサリチル酸から合成されたものです。


印刷所に並ぶロール紙


アスピリンを合成するサリチル酸は柳の樹皮から

 

2.調整サービス

生態系が自然のプロセスをもって環境を制御するサービスをさします。森が緑のダムと呼ばれるように、大雨が降っても水量を調節して洪水や土砂崩れを防いでくれることや、汚れた雨水を浄化する機能、風や温度などを過ごしやすく調節してくれる機能などが含まれ、どれも人工的に制御しようすれば、莫大な費用がかかることです。意外なところでは、農地の近隣に住むハチが作物の花粉を媒介することなども調整サービスのひとつと考えられています。

大雨が降っても水量を調整して洪水や土砂崩れを防ぐ

3.文化的サービス

生態系があることによって醸成される文化的な基盤や価値を支えるサービスをさします。ハイキングやキャンピング、バードウォッチングなどのレクリエーションや、鎮守の森や霊場を訪れることで得られる精神的な癒し、審美的な喜びなどの多くは、その土地の生態系が形作る環境によって支えられた文化であると言えます。人気を集めるエコツーリズムや森林セラピーなども文化的サービスのひとつと考えられます。

神社を囲む森は「鎮守の森」とよばれ、伐らずに大切にされてきた。

4.基盤サービス

他3つのサービスの継続的な提供を支える基本的なサービスです。例えば、生態系が分解・吸収などのプロセスを通して、栄養素(窒素、硫黄、リン、炭素など)の流れと再循環によって土壌を肥沃にしたり、光合成や栄養素の取り込みでバイオマスを産み出したりします。水が液体の姿で土壌から植物に吸い上げられ、気体となって植物から大気中に広がり、やがて固体(雪)や液体(雨)の姿で地上に降り注ぐ水の循環も基盤サービスのひとつと考えられています。

水の循環は、森や海や様々な生き物がつくる複雑なプロセスが支えている。

このように、生態系サービスは、人類にとっての直接的な資源供給サービスであると同時に、地球上の様々な物質やエネルギーを循環させる、大変重要な役割を果たしています。木材や医薬品の原料から、きれいな飲み水、穏やかな川の流れ、爽やかな空気と、植物を元気に育てる土壌まで。日頃、それが「森のおかげ」「森の恵み」を意識していないようなものまで含まれていることに気づきます。

(記事掲載月:2010年6月)

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